“Welcome to the Club”お仲間ですね!Part 7

評論家・瀬川昌久を偲んで

 去る1月15日(土)に開催したSaturday Afternoon Jazz Party Vol.6は、市原ひかりさんの切れ味によいヴォーカル論、トランペットと歌をお贈りしました。僕が彼女の歌を聴いていつも感心するのは、リズムや音程以前の問題として英語の発音がとてもきれいなことです。いわゆるカタカナ英語から完全に脱却している。おそらく舌、唇、歯から顎の動き、頬の筋肉を訓練したのでしょう。トランペッターですから呼吸法や口蓋、舌の動かし方は既に備わっている。ここに正しい英語発音をもってくれば、単語のどのシラブルをどの音程に当てるかが自然に出来る。従ってアーティキュレーション、リエゾン、フレージングにも無理がない。

 お馴染みの「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」の出だしはワン・シラブルの単語が五つ、下降する五個の音符に当てて作られている。単純な例で恐縮ですが、これが完全にできない人がザラにいる。ヴォーカルをお聴きになるときに注意してみてください。美人であることばかりに目を奪われずに。

1月15日、横浜アフターアワーズにて開催されたSaturday Afternoon Jazz Partyのヒトコマ。

 さて、次回のSaturday Afternoon Jazz Party Vol.7のご案内をしましょう。
 既にお聞き及びのことと思いますが、旧臘29日にジャズ評論家の最長老、瀬川昌久さんが97歳でお亡くなりになりました。瀬川さんは1924年生まれ。東京帝大の学生だった1944年に学徒出陣で海軍主計少尉。45年の敗戦直後には病院船となった氷川丸に乗って南太平洋各地に抑留されていた旧日本兵の復員事業に従事。復学して東京大学卒業後に富士銀行(現みずほ銀行)に入行。1953年にはニューヨーク出張中にカーネギー・ホールでチャーリー・パーカーを聴くという稀有の経験をお持ちでした。

 洋楽体験は昭和初年に父君の駐在のために一家でロンドンへ移住した折、ジェローム・カーンの新作ミュージカル『サニー』の中の「フー」を母君がお好きで、レコードから自然に覚えてしまったとか。とにかく年季と経験が圧倒的です。ジャズ評論は滞米中から執筆され、とくにビッグバンドの魅力を伝える文章に特色がありました。パラマウント劇場で聴いたデューク・エリントンを「堂々たる紳士。着こなしの素晴らしい服を何回も着換えて出てくる伊達者」と活写しています。

 瀬川さんの忘れられないお仕事のひとつが日本最古のジャズ喫茶“ちぐさ”の創立者、吉田衛さんに取材した「横浜ジャズ物語 ちぐさの50年」です。これは瀬川さんが吉田さんに4年越しで取材した聞き書きで、1982年から神奈川新聞に連載され85年に単行本として刊行されました。氷川丸で行なわれた出版記念パーティーのことはよく覚えています。

「横浜ジャズ物語〜ちぐさの50年〜」1985年・神奈川新聞社刊

 今回のSAJPではこうした素晴らしいお仕事を残された瀬川さんを偲んで、所縁の“ちぐさ”を会場に、生前長く交友された評論家の村井康司さんに思い出を語っていただきます。この日はライヴ演奏はありませんが、瀬川さんが愛したデューク・エリントン、チャーリー・パーカー、ギル・エヴァンスなどの音源を聴きながら、村井さんに語っていただきます。瀬川ファン、村井ファン、そしてビッグバンド・ファンの皆様のご来場をお待ちしております。

日程:2022年2月26日(土)
時間:14:00~17:00
会場横浜・野毛ちぐさ
TEL:045-315-2006
Mailjazzchigusa@gmail.com
*お席に限りがありますのでご予約をお願いします。
会費:1,500円(飲食別)