“Welcome to the Club”お仲間ですね! Part 9

 横浜ジャズ協会のウェブサイトをご覧の方はすでにご存じと思いますが、来月6月10日(金)に関内大ホールで行なわれる当協会の定期コンサートにジェントル・フォレスト・ジャズ・バンド(GFJB)が出演します。ジャズには縁遠かった層にも人気のGFJB。渋谷の総スタンディングの若者向けのクラブに出てもチケットがあっという間に売り切れるという売れっ子ぶりです。

 戦後間もなくから1970年代くらいまで続いた日本のビッグバンド黄金時代も今や遥かな昔のこと。“シャープス・アンド・フラッツ”、“ニューハード”、“ブルー・コーツ”、“東京ユニオン”といった名門バンドの多くはリーダーを失い、健在であってもその活動は限られています。こんなビッグバンド界のなかで、なぜGFJBは突出した人気を得ることができたのか?

ぼくは定期コンサートのフライヤーのタイトルと解説文にこう書きました。

日本のジャズ界に奇跡をおこしたジェントル・フォレスト・ジャズ・バンド。一時期は時代遅れとさえ言われたジャズのビッグバンドというフォームを鮮やかに、そして今日的な装いのもとに蘇らせたのがリーダーのジェントル久保田です

 そして公演のタイトルは「BIG BAND ENTERTAINMENT」としました。

 往年の日本のビッグバンドが衰退していったのは、70年代初頭から始まるジャズのスタイルの変化と、それと歩調を合わせるように起こったポップス界の地殻変動によるものです。“ウェザー・リポート”や“ヘッド・ハンターズ”、“リターン・トゥ・フォーエヴァー”などが先陣となって開幕した1970年代は、スウィング〜バップ由来のジャズを過去のものにしました。

 ポップス界も“クリーム”、“ディープパープル”、“レッドツェッペリン”などのニューロック、ボブ・ディラン、ジョニ・ミッチェルなどのニューフォークの時代に入り、日本の音楽業界も甚大な影響を受けます。“シャープス・アンド・フラッツ”が毎年NHK紅白歌合戦で美空ひばりなどの伴奏をしていたことは、オールド・ファンならご存知のことでしょう。メイン・ストリームのジャズの演奏だけでは維持できない日本のビッグバンドにとって歌謡番組出演は大切な収入源でした。これがロックやフォークのギター中心のバンドにとって代わられたのです。

 こうした世界的な趨勢のため、この数十年間に一般の人々にとってビッグバンドは遠い存在、忘れられた存在になりました。中堅若手のミュージシャンの中には、日常のコンボによる演奏のほかに、有為の人材を集めアレンジを書き、リハーサルを繰り返し新作発表のような意気込みでコンサートをおこなう有能な人材もいますが、なかなかレギュラー活動には結びつかない。ここがビッグバンドの難しいところです。腕は申し分ないので、皆々ポップスの伴奏などスタジオ仕事はいくらでもあるでしょうが、それだけではどうしても欲求不満が残ります。

 アメリカでも1966年に結成され、ヴィレッジ・ヴァンガードの休店日(月曜日)を利用してビッグバンド・サウンドを轟かせたサド・ジョーンズ=メル・ルイス・ジャズ・オーケストラの「マンデイ・ナイト」は、コマーシャルな仕事に飽き足らない腕っぷしの良いミュージシャンの本領発揮の場として人気を集めたのです。

 国内外でこんな状況が続く中、GFJBが旗揚げしたのは2005年。大学バンドの仲間たちが集まり、まずは社会人バンドとして結成されました。このときジェントル久保田は市場把握のために先行するバンドを聴いてまわったそうです。

 「自分たちの楽しみのためだけにやっているバンドってつまんないなと思いました。内輪で盛り上がっていてお客さんに向けてやってない。ちゃんとお客さんに向けたライヴがしたいと思ったのです。皆さんお上手ですからジャズ・ロック、ラテン・ナンバーなど難しい曲も聴かせますが、僕はスウィングが好きなのでこれ一本でいこうと決めました」

 まず聴き手のためという視点。このためにジェントル久保田は自分にしかできない工夫を凝らします。彼が音楽を始めたのは4年間他の職業に就いた後、あらためて大学に入ってビッグバンドでトロンボーンを手にした時のことでした。

 「大人になるまで音楽をやってこなかったというところにポイントがあります。幼時から音楽をやってきた人は音楽をやる範囲のなかでしかわからないことがある。ぼくのようにやってこなかった人間は、何でそこで笑わないの? 何で難しい顔してるの? と思うことがしょっちゅうあります。そこにフォーカスして音楽を作っていくということが僕がやるべき仕事だと思いました」

 この考えを具体化し、自らリーダー、指揮者として実践的に行動するところがジェントル久保田たる所以です。

 「ビッグバンドを初めて聴きに来た人にわかるようにやろう、いまここでソロ、ここですごいことが行われているということを指揮振りでみせる。なにを見るべき、なにを楽しむべきかをトークと指揮の身振りで見せることでお客様とバンドの位置を近くするように心がけています」

 一見するだけで小さな子供にもわかるジャズの楽しさ。しかしジェントル久保田とGFJBの目覚ましさの背後には、紛れもなくビッグバンド・ジャズの正統を受け継ぐという凄みがあります。考え抜かれたアレンジ、それを理想的な響きとして具現化し得る力強い合奏能力、各セクションに何人もいる卓越したソリストたち。ジェントル久保田の手本は一にデューク・エリントン、二にカウント・ベイシーというのですから正真正銘です。

 「歴史をhiくと、誰しもアフリカン・アメリカンのカッコよさを真似しようとしてジャズは出来上がっていったのだと思います。このなかでやはりエリントンはトップ、神様ですね。ベイシーが次でビッグバンドをやる指標になります。こういう偉人たちを目指して自分のバンドに置き換えてやっている、あの頃のジャズにはすべてが詰まっています。我々にとってあの頃のジャズやっているのが至上の幸福です」


一般社団法人横浜ジャズ協会主催第三回定期コンサート
BIGBAND ENTERTAINMENT !/Gentle Forest Jazz Band

日程:2022年6月10日(金)
時間:開場18:30 開演19:00
会場:関内ホール(大ホール)
チケット:前売4,500円/当日5.500円
     関内ホールチケットカウンター 045-662-8411
     カンフェティフリーダイヤル 0120-240-540
     チケットペイ https://www.ticketpay.jp/booking/?event_id=37781
問い合せ:横浜JAZZ協会
TEL 080-8450-1516 FAX 045-345-0323
Email tichet@yokohamajazz-ac.com